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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)1445号 判決 1968年6月27日

上告人

池田政一

被上告人

株式会社相生市場

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

原判決(およびその引用する第一審判決、以下同じ)の事実認定は、その挙示の証拠に照らして、是認することができないものではない。そして原判決の確定した事実関係のもとでは、上告人が被上告人に対して交付した金一五万円が、貸金ではなく、本件の店舗賃貸借にさいしその店舗の有する場所的利益に対する対価として支払われたいわゆる権利金であつたという原審の認定判断は、正当として是認することができ、これに所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点について。

原判決の確定したところによれば、本件の権利金名義の金員は、上告人が賃借した建物部分の公衆市場内における店舗として有する特殊の場所的利益の対価として支払われたものであるが、賃料の一時払としての性質を包含するものでなく、かつ、本件賃貸借契約には期間の定めがなかつたというのであり、賃貸借契約の締結またはその終了にさいし右金員の返還について特段の合意がされた事実は原審で主張も認定もされていないところであるから、このような場合には、上告人主張のように賃貸借契約がその成立後約二年九ケ月で合意解除され、賃借建物部分が被上告人に返還されたとしても、上告人は、それだけの理由で、被上告人に対し右金員の全部または一部の返還を請求することができるものではないと解すべきである。論旨引用の当裁判所昭和二六年(オ)第一四六号同二九年三月一一日第一小法廷判決、民集八巻三号六七二頁も、右のような場合に常に権利金名義の金員の返還請求を認めなければならないという趣旨を含むものとは解しがたい。したがつて、上告人の権利金返還請求を排斥した原審の判断に違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎 入江俊郎は海外出張のため署名押印できない)

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